銀行員と漁師

私はこの旅に現金10万円を持ってきたが、タイで自分のキャッシュカードが使えないことが判明して以来、かなりちびちびとお金をつかってきた。残り2万円というぶるぶるな状況の中、貴重な1万円を港の銀行で両替してきた。

銀行はそんなに大きくない。デスク3つで部屋いっぱいになるくらいの大きさだ。ハローと中に入ると、うっすらと心地よい温度に設定された冷房が感じられた。冷房なんて数か月ぶり。座っていた2人の紳士もしっかりとした対応で、私をリラックスさせた。隣にいた友人が「大学で金融系の勉強をされたんですか?」なんて世間話をしていた。

銀行を出たあとに友人がポツリ。「冷房なんてここしか使ってないんじゃないの?汗水たらしながら10ルピーを稼ぐ人がいる横で、冷房の効いた部屋でスーツ着てしっかり稼いでいる人がいるんだから、やっぱり教育は支払ってくれるんだね~」

この一言に私も考えた。その日、私は漁師と一緒に朝日を見ていた。

朝日が出る前から海へ出て、海で網を集めている。網を集めた漁師が戻ってくると、網に引っ掛かった魚やカニをとる作業を手伝いに4人のおじさんが集まってきた。網に引っ掛かった魚がキラキラしてきれいだ。私が漁師の隣でヌボーっと立っていると、一人のおじさんが話しかけてきた。「この魚は100ルピーだ、買うか?」と。返事をする代わりに「この魚どうするの?」と私が聞くと「こんな小さい魚、西洋人は食わないから、そのへんにある地元の食堂に売るんだ。俺たちは他にする事ないからこれやってんだよ。」しゃべっているのはそのオジサンだけで、他のおじさんは黙々と網から魚をとっている。私の印象ではインド人はかなり仕事熱心。作業が終わると手伝いのおじさんたちは小さな魚を一匹持って各々散っていった。魚が仕事の報酬ということだろう。

小さな村でもいろんな生活があり、教育を受けた人はよりよい(何がいいかはわからないけど、とりあえず)仕事をしている。日本という裕福な国からやってきて、教育・清潔当たり前!と育った私は、銀行の雰囲気に安心を感じちゃったんだよな。この小さな村を拡張した先にある、教育制度が整った国とそうでない国にある不平等。不平等は存在する。

その日食べた魚タリーには、朝漁師の網に見たサイズより大きめの魚がついてきた。90ルピー(160円)。

柿崎 麻莉子 | Mariko Kakizaki

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