Hoi an singer

バスに12時間揺られて、まさしく揺られて、上下左右に揺られながら、吐きそうになりながら、到着した街、ホイアン。バスの二階に座ったのが良くなかった。バスを降りてからも動き出せず、復活するまでベンチでちびちび水をのんだ。よいしょと腰を上げ一番最初にするのは宿さがし。疲れからいつもより重く感じるバックパックをかついで宿を探す。

しばらく歩いてもなかなか見つからないので、しょうがなく道端で休憩。しばらくするとかわいいニット帽をかぶったお婆さんが玄関を掃除しにでてきた。会釈をすると、おばあさんが「Where are you from?」と聞いてきた。日本だと答えると、急に日本語で歌いだすおばあさん!

入れ歯をしていなかったから、なにいってんのかほとんど分からなかったけど。なんとか聞き取れた歌詞は「学校に行けるのは兵隊さんのおかげです~兵隊さんありがとう~」。小さい時に学校で習ったから5曲は日本語で歌えるとか。よく覚えてるねというと、「I remember everything」と言われた。

それから肘のあたりをガシッと掴まれて、もう一曲歌を披露してくれた。それからもう一曲、今度はリズムに合わせて肩をドンドンどついてきて、その力が強くて、笑ってしまった。

手を握ってきたおばあさんの握力を感じたまま歌を聴いていると、不安な気持ちがつのってきた。日本がこの街で貿易をしていたことは知ってても、その時に地元の人とどういう関係を気付いたか私は知らない。こんな風に日本語で唄を歌えるということは教育にも日本の力が及んでいたということなのか。そうだとしたら、このおばあさんも暗い思い出があるんじゃないのか、と。まあそれは、余計な心配だったみたい。

一通り歌い終えたおばあさんが言った「I like tourist but not France people.war everywhere.war.」悲しそうな顔をした後に、続けて「I forgot everything」と。

そのあとニット帽の下の白髪を見せてくれた。うちのひいばあちゃんと同じ綺麗な真っ白な髪の毛。小さいときに習った日本の歌さえも覚えているのに、「i forgot everything」というおばあさん。

忘れられないこと。忘れたいこと。忘れてほしいと勝手に思ってしまう。何もわかってないのに。今、平和になったこの国でのむお茶の味を楽しめたら、それがいい。

おばあさんにいい安宿はないかと尋ねると、少し先にあるホテルを教えてくれた。言われた場所に行ってみると、見るからに高そうなホテル。ためしにと思って値段を聞いてみると、私の予算の5倍くらいで、なんか、可笑しくなってまた笑った。

柿崎 麻莉子 | Mariko Kakizaki

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