フエの王宮で踊る人たち

昨日、今日とフエの王宮に通いました。

お目当ては王宮内の劇場で毎日公演されることになっているベトナム伝統舞踊。

昨日は劇場の休日で見られなかったので、今日こそは、と意気込んでやってきた。劇場に1時間前に到着。わくわく待っていたが、10分前になっても始まる気配なし。係りの人に聞くと「お客さんが5人いないとショーはしない決まりなの」と。えー!大慌てで、王宮を走り回り、会う人会う人にセールスレディのごとく声をかけまくり、なんとか5人捕まえて劇場に戻ってきた。

さあ、いよいよ、とおもって一番前の席につくが、なかなか始まらない。係りの人に聞くと「お客さん6人は必要だわ」とか言っている。えー、さっき5人って言ったじゃん!しばらく言いあっていたら、せっかく集まってくれていた人たちも「ごめんなさいね、行かなくっちゃ。グッドラック!」とかいって散って行ってしまった。

もう、ガックーン。これを見にフエに来たようなものなのに…こんなにあなた達のダンスが見たい人もそうそういないと思うんだけどな…とにかく、ガックーン。

落ち込んだまま劇場を出てとぼとぼ歩いていると、林の中から音楽が聞こえてきた。ふらーっと音楽に吸い込まれていくと、なんと、踊っているではないか!これは、と思い、小屋に近づくと、中に入れと言われ、言われるがままにスタジオに侵入成功。

20代後半の女性ダンサー8名が先生の指導のもと歌い踊っている。歌のイントネーションがかなり細かい。ダンスは波のように漂う足元と、ステップを止めた時に身体に走るエコーが印象的。ダンサーが踊っている時は、ただふらふらしているように見えた足元も、先生がやると歌と共に必然の動きにみえた。振付を理解している人がやると、クリアに振付が見えてくる。聞くと彼女たちは今日劇場で踊ることになっていたダンサー達らしい。

リハーサル室には、ダンサーと先生のほかにテレビ局のカメラさんがいた。リハーサル後、私にベトナム語で話しかけてきた先生が、私が何も理解していないことを知って、大爆笑。どうやら私をテレビ局の人だと思っていたらしい。

スタジオを出て、また歩く。

別の建物から歌が聞こえたので近づくと5人の男性がリハーサルをしていた。

スタジオの近くにいた男性に話しかけると、彼は英語が話せた。「これはベトナムの伝統芸能のTUONGで、日本の能のようなもの。普段は3か月かけるところを15日で新作をやろうとしているから、観光客用の劇場公演をする時間がないんだよ」と。

5人の男性の中央に座る白髪の男性が異様なオーラを発していた。やはり、彼も先生。膝を曲げたパドブレの動きと、キュッと片足で停止する様が、本物だということを示していた。

今日見た二人の先生は私のように知識のない者でも、そうとわかるほどプロフェッショナルだった。本物のパフォーマンスをいつかみてみたいな。指導の仕方が私にとっては新鮮だった。実際に踊ってみせる、歌ってみせる、伝統を伝達していくところには、年代をこえて受け継がなければならない技があるんだろう。身体が動けばいつまででも自分が踊りたいと思ってるんじゃないか、と思うような気合の入ったデモンストレーション。新しいものを作っていく場所にはない、エネルギー。

それにしても、王宮をあるいていると、伝統舞踊のリハーサル室にぶち当たるというのが面白い。

だれかフエの王宮に行くことがあったら、私の代わりに公演をみにいってみてください。先生たちがパフォーマンスしていたらいいんだけど。もし、公演がキャンセルされても落ち込まずに、耳を澄ませば、リハーサル室がみつかるはず。

柿崎 麻莉子 | Mariko Kakizaki

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